同じ試し編みを、表と裏から撮った二枚の写真です。片方にはVの形が縦に並び、もう片方には横向きの小さな凹凸が続いています。違う模様に見えても、二枚の布を編み分けたわけではありません。
一つの編み目を反対側から見ると、見え方が変わる。表目と裏目の関係は、ここから始まります。
作者の試し編み。写真は撮る向きと倍率が異なります。同じ一目を位置合わせした図ではありません。
「裏」は、隠す面のことではない
表目・裏目という編み目の見え方と、作品のどちらを表として着るかは、別の話です。裏目の凹凸を見せる作品もあります。「裏だから仕上がっていない」「表だけが正しい」ということではありません。
作者は棒針編みを始めたころ、表編みはなんとなく分かったものの、裏編みでつまずき、一度やめてしまったそうです。一年後に再挑戦して、表編みを反対側から見たものなのだとつながった。その経験が、この二枚を並べて見せたい理由にもなっています。
平編み機では、同じ面を見続ける
棒針でメリヤス編みを平に編むときは、一段編んだら布を返します。表目側を見ながら表編みをし、裏目側を見ながら裏編みをする。手の操作を変えることで、同じ面には表目が並び続けます。
一方、平編み機でメリヤス編みをするとき、編み手に見えているのは裏目側です。キャリッジは左右に往復しますが、そのたびに布を裏返すことはありません。同じ面を見たまま編み進めるので、手前には裏目側、向こう側には表目側ができていきます。

輪に編む手編みでも、同じ面を見ながら進めます。ここで比べているのは針の種類よりも、布を返すかどうか。輪針を使って平に往復して編むこともできます。
タッピ返しは、見ている面の目を作り直す
では、平編み機だけでゴム編みを作るには、どうするのでしょう。方法の一つが、タッピ返しです。編み地全体を裏返すのではなく、返したい列の目をほどき、タッピで作り直していきます。
編み手からは裏目に見えていた列が、表目の列に変わる。二目ゴム編みなら、二列を返して二列を残す並びにします。見ている面を固定すると、何を変えたのかを追いやすくなります。

最初は、ほどいた糸を一段ずつ拾うだけでも気を使います。作者は、慣れるとこの作業をしたくなると話しています。機械に任せて進む時間と、目を一つずつ作り直す時間。同じ編み地の中に、両方の手仕事があります。
ここでの図は並び方の説明です。編み出しの方法や、端の処理までを含む操作手順ではありません。二目ゴム編みの編み出しと手元は、別の記事で続けて見られます。
表と裏の並べ方で、得意な仕事も変わる
同じ面から見たとき、表目と裏目を縦の列で分けるとゴム編みになります。段ごとに変わるのがガーター編み、一目ずつ交互に並び、次の段で配置が入れ替わるのが一目鹿の子です。
メリヤス
同じ面に表目が並ぶ。
一目ゴム
縦の列ごとに、表目と裏目。
ガーター
段ごとに表目と裏目。
一目鹿の子
次の段では表裏の配置を入れ替える。
V=表目、横線=裏目。完成した布の一方の面から見た配置です。編む順番や針を動かす指示ではありません。
平に編む手編みでは、表編みだけを続けるとガーター編みになります。けれど、布を返さない平編み機では事情が違います。手作業で表裏を変える場合は、段ごとに仕事が増えます。一目鹿の子も同様で、できないというより、手数がかかる模様です。
編み地を反転させて針へ戻すガーター器のような専用の道具もあります。手編みで簡単なことと、編み機で進めやすいことが、いつも同じとは限りません。その違いを知ると、どの道具でどこを編むかも考えやすくなります。
同じ一枚を、もう一度眺める
表目と裏目を別々のものとして覚えるより、一枚の布を両側から見る。次に、布を返すことと、一列の目を返すことを分けて考える。それだけでも、ゴム編みやタッピ返しの見え方が少し変わります。
最初の試し編みには、きれいに編めたかどうか以外にも、確かめられることがあります。両面の形、厚み、伸び方。そして目数や段数と、長さの関係。その続きが、ゲージで、欲しい大きさにつなぐ話です。

